「ウイニングカルチャー」への第一歩~2021-22シーズン・新加入選手記者会見~

取材・文:荒 大 text by Masaru ARA
写真:茨城ロボッツ photo by IBARAKI ROBOTS

7月16日、M-SPOスタジオにて、ロボッツへ加入することとなった日本人選手の記者会見が行われた。B1の舞台を豊富に経験してきた、#7西川貴之、#8多嶋朝飛、#55谷口大智の3選手が登壇し、ロボッツでの活躍を誓った。ロボッツが目指す「ウイニングカルチャー」の土台作りを託された新加入選手たち。今回の記事では、まずはその人となりを知ってもらうべく、プレースタイルや、会見で明かされたオフコートの素顔などを紹介していくこととする。

得点能力でフォワード陣のオプションとなれるか

地元クラブである、レバンガ北海道でプロキャリアをスタートさせた後、シーホース三河を経て、昨シーズンまで三遠ネオフェニックスでプレーをしてきた#7西川貴之。長年トップリーグやB1での活躍を支えてきたのは、彼のシュート能力の高さによる部分が大きいだろう。身長のあるフォワードながら、長距離シューターとしても活躍を見せてきた西川。試合の行方を左右するような場面でも動じない精神力も併せ持ち、土壇場での活躍でチームを盛り立ててきた。B.LEAGUE ALL-STAR GAME 2020では、レジェンド・折茂武彦や日本代表・金丸晃輔らと共に3ポイントコンテストに出場した経歴も持つ。リーグ屈指のシューターといっても差し支えないだろう。一方ではスピードに乗ったドライブや、ここぞというポイントを通すパスセンスも持つ。オールラウンダーとして彼がいることで、他の選手たちが活躍する場面も増えていくはずだ。会見では「自分の持てる力を全て出しきって、チームの勝利に貢献したい」と抱負を述べた上で、自らをこうアピールした。

「僕自身、得点力を発揮して、チームに貢献できたらと感じています。もちろんディフェンスもハードにこなさなくてはなりませんが、オフェンスで見せていければと思っています。」

茨城に来るのは、北海道在籍時に、当時のつくばロボッツと対戦して以来だという西川。引っ越しも終え、徐々に茨城での生活に慣らしているところ。早速、観光地を巡ってきたそうだ。

「引っ越しが終わって、時間もできたので大洗までドライブをしてきました。海鮮丼も食べられましたし、お値段もリーズナブルなので気に入りましたね。」

これまで在籍したクラブでも、プレーで魅せることで地位を築いてきた西川。だが、ロボッツの社長兼ゼネラルマネジャーである西村大介からは、さらなる飛躍を求められる場面があった。西村はこう話す。

「3ポイントも打てて、ドライブもできて、身長もある選手です。当然、今までも活躍されてきた選手ではありますが、もっと、リーグを代表するような選手になれるポテンシャルを秘めていると思います。得点能力があるからこそ、『彼がいるからボールを託せる』という部分を期待していますし、得点源としても注目しています。」

昨シーズンは肩の負傷による戦線離脱もあったが、それについて本人に問うと「心配ない」と言い切る。寡黙な仕事人が、茨城でどう昇華できるか、じっくりと戦いぶりを見ていきたい。

西川のメインポジションであるスモールフォワードの面々を見てみると、現在のロボッツにおいては#0遥天翼や#29鶴巻啓太など、ディフェンスに強みを持つ選手たちが顔を連ねる。そこに西川の得点能力が加わることで、ローテーションの面でも、あるいは戦術の面でも彼の存在が大きなカードとなってくることだろう。

B1屈指のハンドラー。キラーパスから目が離せない

長年、レバンガ北海道の顔として活躍をしてきた#8多嶋朝飛。その活躍ぶりは、多くを語る必要はないかもしれない。多彩なスキルで北海道の攻守を引っ張ってきた多嶋。自らもスコアラーとして能力を十分に発揮する一方で、インサイドの選手とのホットラインを上手く形成し、黒子役にも徹することができる選手だ。かつては#15マーク・トラソリーニとの連携で得点を量産したといえば、ロボッツブースターにとってもイメージがつきやすいだろうか。

「リンク栃木ブレックス(現:宇都宮ブレックス)でプレーして以来、久々に北関東がホームとなる」と話した多嶋は、こう意気込みを話す。

「新たなチャレンジだと思っていますし、ロボッツが目指すチームに少しでも貢献できるように、オンコート、オフコートで自分の力を出して行きたいです。」

ロボッツの雰囲気を尋ねられた多嶋。B1を目指すプレーオフでの戦いぶりを見たという彼は、その印象をこう語った。

「オフェンスも、ディフェンスもすごくアグレッシブなチームだと感じましたし、何より一体感があるというか、これからチームとして戦う上では楽しみだなという気持ちがありました。チームとしてのロボッツの良さを作り上げていくところに、加わっていければと考えています。」

移籍加入の経緯についても質問が飛んだ。実に8シーズンにわたって地元・北海道で戦い、チームのキャプテンも務めた彼からすれば、ロボッツへの移籍は「もちろん簡単な決断ではなかった」という。その上で、彼なりのやりがいが、そこにはあったようだ。

「西村さんからお話をいただいたときに、分かりやすく『必要としている』という意図を感じましたし、明確なプランやビジョンも示していただきました。そこに加わりたいと思ったのが第一ですし、できることがあるはずだと思います。自分自身、プロ選手としてまだまだ成長していきたいという気持ちは変わらないですし、ロボッツは、一生懸命な中でもすごく楽しそうにプレーをするチームです。その雰囲気はこれまでのロボッツが作り上げてきた物だと思いますし、そこをさらに伸ばしていく手助けができればと考えています。」

会見では、早速名刺代わりともいえる「キラーパス」が炸裂した。自分のプレースタイルや人となりを示す「キャッチフレーズ」を求められたのだが、多嶋はあっさりと「(谷口)大智に任せます」といなしてみせた。これが彼の間合いなのかもしれない。そんな、軽い脱線も挟みつつ、会見は和やかに進んでいくのだった。

一方、ロボッツには多嶋と浅からぬ縁を持つ選手がいる。東海大学時代の同期である、#0遥天翼だ。3年生だった2009年には共に主力選手の一角として活躍し、インカレのベスト4入りに貢献。ロボッツへの加入が決まったときには、すぐさま連絡が来たという。

「加入する以前から天翼とは連絡を取っていましたし、大学以来、もう10年以上ぶりに一緒にプレーすることになります。彼の熱さには期待している面もありますね。」

そんな中、遥は多嶋の加入が決まって以来、彼にある「お願い」をしている。昨シーズンの登場以来、ロボッツの新たな応援グッズとして定着した「納豆ヘッド」を、多嶋に被ってもらおうと企てているのだ。この記者会見でも、フォトセッションで納豆ヘッドが手渡されたのだが…。残念ながら手に持って掲げるのみで納豆ヘッド姿のお披露目とはならなかった。

今シーズンのロボッツは、#25平尾充庸やスピードスターの#14髙橋祐二など、ポイントガードのタレントが豊富に揃う。しかし、その中で多嶋の経験と技が生きる瞬間は、必ずやってくるだろう。また、西村社長兼GMからは「平尾と共にコートへ立つ時間があっても面白い」という発言も飛び出した。今季のロボッツにおいては、インサイドでのハイロープレーを得意とする#21エリック・ジェイコブセンも加わった。多嶋の手先からどのような得点シーンが生み出されるか、そしていつ彼が納豆ヘッドを着用するのか。今から注目していきたい。

泥臭くもインサイドを守りきる。一方ではオフの姿にも要注目

最後に紹介するのは、#55谷口大智。「スラムダンク奨学金」の奨学生として、アメリカへの留学経験を持つ谷口は、年々希少価値が高まっている日本人ビッグマンとして、秋田ノーザンハピネッツ、そして広島ドラゴンフライズと、2チームのB1昇格に貢献を果たしてきた。インサイドで外国籍選手に当たり負けしないフィジカルもさることながら、シュートレンジの広さも魅力の一つ。状況に応じて柔らかなシュートタッチで3ポイントも放てるだけに、彼が奮闘することで、トラソリーニやジェイコブセンといった選手への負担軽減にもつながってくることだろう。彼自身も、新たなチャレンジをするということに対しては、「今からワクワクが止まりません」と、率直に思いを打ち明ける。

B2、そしてB1と双方の舞台を経験している谷口。その違いはどこにあるのかを尋ねると、彼は次のように述べた。

「僕自身の経験としては、組織力があるチームでないと、個々の力では打開できないというのがB1だと思っています。チーム全体がどのように戦って勝ちを掴み取るかというところまで共通理解を持つ必要がありますし、勝ちたいという気持ちだけで個人個人のパフォーマンスに走ってしまうと、バラバラなチームになってしまいます。全員で『自分たちのバスケットはこうだ』というのを作り上げていくのが重要です。」

ロボッツはチームとして「ウイニングカルチャー」を作り出すことを目指している。昨シーズン就任した、リチャード・グレスマンHCのもとで「Unselfish」「Toughness」など、チームの哲学が少しずつではあるが定着してきている。何を以てロボッツのバスケットとするか。彼の経験がロボッツに注がれることで、新たな変化が起こるはずだ。西村社長兼GMは、谷口へのプレー面での期待を、このように話す。

「タプスコット選手がウイングでプレーできる選手なので、よりインサイド寄りに戦える選手を獲得したかったというのもありますし、コーチの意図にも合致する。いい選手が獲得できたなと思っています。」

一方で、谷口には別の顔がある。自ら動画を撮影・編集し、投稿する「YouTuber」としての一面だ。その内容はバスケットのスキルやトレーニングの紹介に特化する、ということではなく、谷口にとってゆかりがある場所での食べ歩きの模様をまとめたり、彼自身が趣味とするアクアリウムにまつわる投稿など、オフコートのほのぼのとした空気が漂う。今の肩書きは本人曰く、「YouTuberバスケットボール選手」。選手たちの新たな素顔が、彼の動画から垣間見られる日も近いだろう。谷口は、隣に座った多嶋や西川の方に視線を向けながら、

「この2人も出てくれるはずなので…、ぜひチャンネル登録してください!」

YouTuberらしい(?)決め台詞も飛び出す一幕となった。

会見の中では、ロボッツの選手との意外なつながりを明かした。

「ロボッツへの加入が決まったときに、平尾選手から連絡があって、『楽しくやろうよ』というメッセージをもらいました。僕は奈良県の出身なんですが、当時平尾選手が奈良の天理大学に在学していて、よく実家まで遊びに来ていたんです。」

平尾のほか、ロボッツの面々とSNS上でも茶目っ気のある会話を交わす谷口。オンコートでの職人ぶりと、オフコートでの和やかさで、ロボッツの新たな一面を開拓してくれることも楽しみにしていきたい。

新チームはまもなく始動

B2プレーオフでの激闘以来、およそ2ヶ月のオフシーズンを超えて、選手たちはいよいよシーズンへの本格始動を迎える。ロボッツに残った選手、新たにロボッツの一員となった選手。各選手がそれぞれの役割を果たしていくことはもちろん、西村社長兼GMが掲げる「ウイニングカルチャー」を少しずつ作り上げていく、そんな一年を迎えることとなる。

夢にまで見た、B1の舞台だが、これまでの何倍も険しい道のりが待ち受けている。B1を戦うに当たって、この3人がロボッツに光を灯せる存在になってくれることを、期待していきたい。

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