【AFTER GAME】 2022-23 秋田戦(4/29~30)~成長を結果で示す。走り続けて、戦って~

取材:文:荒 大 text by Masaru ARA
写真:茨城ロボッツ、B.LEAGUE photo by IBARAKIROBOTS,B.LEAGUE

今シーズン最後のホームゲームとなった、秋田ノーザンハピネッツとの2連戦。ロボッツは秋田のキーマンたちを粘り強く抑え続け、オフェンスでは速攻を見せる、という「アップテンポ」を体現したような試合を展開する。GAME1は91-82でリードを守りきり、GAME2は最大17点のビハインドをひっくり返し、89-75で勝利した。昨シーズンはその堅守ぶりに手を焼き、1勝3敗と負け越した秋田を相手に、今シーズンは逆に3勝1敗と勝ち越しに成功。シーズン最終盤に見せた会心のゲーム運びの舞台裏を探る。

アップテンポの中の冷静さ

この2日間ともにチームのトップスコアラーとなったのが#11チェハーレス・タプスコット。GAME1では相手の追い上げが続く中、たびたびインサイドに割って入り、得点を重ねていった。その場面で際立ったのが、#21エリック・ジェイコブセンとのポジションの入れ替え。これによって秋田はタプスコットに対するマークマンが#7スタントン・キッドから#00スティーブ・ザックに替わる。ビッグマンのザックは高さに利があるのだが、ステップワークでタプスコットが押し込む。第4クォーターだけで9得点を挙げる勝負強さで、ロボッツの勝利を決定づけた。

スピーディーな展開の中、ボールを運んだタプスコットはきわめて冷静に状況を見極めていた。

「自分たちとしては、ディフェンスを読みながらプレーしていました。エリック(ジェイコブセン)がスクリーンをかけてくれたところに、秋田さんはスイッチ(ポジションを入れ替える)をしてきました。そうすると、自分とエリックがミスマッチになります。まず自分が試したのは、エリック選手にボールを集めることでした。インサイドでプレーしてもらって、どういう風に秋田さんがディフェンスをしてくるか。反応を見ていって、最後は自分がザック選手をペリメーターから…と、相手を読みながらやっていました」

GAME2では速攻でのバスケットカウントを度々奪い、前日を上回る26得点。ゴール下まで一直線に走りきり、秋田のディフェンスが立ちはだかる前に勝負を決めてしまった。今季はさらにポイントゲッターとしてレベルアップを果たしたタプスコット。彼について、GAME2を終えてリチャード・グレスマンHCがこんなコメントを残した。

「自分たちがB1に初めて挑戦したとき、自分は全くそう思わなかったですが、多くの人、あるいは多くのチームが、『タプスコット選手はB1で通用しない』と思われていると聞いていました。ただ、本当に今日に関しては、タプスコット選手は相手のスコアラーたちを上回った、素晴らしいプレーをしてくれました」

タプスコットは、パワーフォワードというインサイドを主戦場とする面々では決して大柄ではない。ただ、高さのディスアドバンテージを何度も乗り越えて、ゴール下へと攻め込んでいった。今季は1試合(1月8日・島根スサノオマジック戦)を除いてスターターで出場しているタプスコット。「RISE TOGETHER」の一員としてB1昇格のミッションを遂行し、「BUILD UP」を続けてB1で通用する選手となり、「GEAR UP」を果たして不動のスターターへと定着した。雄々しさと、一転しての和やかさを常に織り交ぜながら、戦い続けるタプスコット。最終節も、彼はきっと心強い存在でいてくれるだろう。

アクシデントも、最高の結果で

GAME2では、#17山口颯斗が脳振盪の疑いがあったためにエントリー外。ここのところのロボッツの攻守を支えた男が、そもそもコートに立てないというアクシデントに見舞われる。だがここで、昨年12月の群馬クレインサンダーズ戦以来、約5ヶ月ぶりのスターター起用となった#29鶴巻啓太がこの試合のキーマンになっていく。

秋田の#12川嶋勇人や#17中山拓哉など、フィジカルとスピードを両立できる選手たちがドライブアタックを仕掛けてくる中で、しっかりディフェンスでのフットワークで出先を阻んでいく。第3クォーター早々に個人ファウルが3つに達してしまうが、その後も強度とクリーンさを両立させていった。

「前半で、相手のボールマンたちに、好き勝手にやらせてしまったイメージがあり、後半はスクリーナーに付いたディフェンダーがボールマンに対してさらに出るようにプレッシャーをかけました。そこから秋田のボールマンがすごく嫌がって、少し展開が重くなるような修正にできたと思います」

劣勢に立たされた場面でも、ビッグプレーが飛び出す。第2クォーターでは#13中村功平が外したシュートのリバウンドに飛び込み、左手1本でタップして得点に。さらには秋田の#11ケレム・カンターがディフェンスの裏を突いてパスを受け取り、あとはゴールまで走り込むだけ…というところに現れて、ブロックショットも見舞ってみせる。本人は「『やってやった』という感じですかね」と、不敵に笑いつつその場面を振り返った。今季最長となる27分36分の出場。出力全開なところをいくつも見せて、追い上げムードの立役者となった。

そんな彼のパフォーマンスについてグレスマンHCにコメントを求めたところ、「驚くことではない」と話しつつも、彼の今シーズンの戦いぶりについても振り返った。

「3つめのファウルをしてしまったときに(ベンチに)下げなくてはならないと、確かに考えました。ただ、そこからコートに戻って、素晴らしいディフェンスで大きな頑張りを見せてくれました。シーズンの前半は、鶴巻選手にとって非常にタフな状態だったと思います。非常に大きなケガからの復帰だったので、本人も苦しかったと思います。ですが、今日のパフォーマンスを見て『これが自分が知っている鶴巻選手だ』と、うれしく思いました」

今季の鶴巻は、一時的にエントリー外となる試合もあったものの、終わってみれば大きな離脱に追い込まれることなくシーズンを終えようとしている。昨シーズンの最終戦セレモニーの際、松葉杖姿であいさつをしていた姿から考えれば、最高の回復アピールになったようにも見える。最終節の相手は、奇しくも昨シーズンの鶴巻が大きく評価を上げるターニングポイントとなった大阪エヴェッサとの一戦。圧倒的なスキルを武器に得点を重ねていく#25ディージェイ・ニュービルを相手にした「身のこなし」が、再び見られるのか。鶴巻は記者会見で改めてこんなコメントを残した。

「途中で数試合抜けてしまいましたが、個人的に今シーズンの目標にしていた『長期離脱をしない』ということを考えれば、まだ終わってはいないですけど、大きなケガなくやれています。最後まで集中切らさず、気をつけてシーズンを終えたいですね。昨シーズンに続いて、ニュービル選手を相手にすると思うので、そこを抑えられるように頑張ります」

誰もが全力で

GAME2で際立ったのが、#8多嶋朝飛と#25平尾充庸によるコンビプレーだった。第2クォーターでは先に触れた鶴巻のディフェンスからこぼれたボールを回収した平尾が、オープンで待ち構えていた多嶋にパス。相手のチェックをものともせずシュートを沈める。守って攻めてという流れを一発で描きだし、ロボッツに流れを呼び戻した。その瞬間を、平尾はこのように話す。

「僕たちが本来やりたいバスケットが連続的にはできなかったにしても、途切れ途切れながらできたはずです。追い上げている時間帯でコートの端まで走り込んだ朝飛さんもすごいと感じるんですけど、『全員が走っている』っていうところがターニングポイントだったと思います。正直、どこに出しても誰かがシュートを打てる位置にいたと思いますけど、やっぱり全員が走ってくれていたことで、朝飛さんが結果ノーマークになっていましたね」

最大17点のビハインドとなったGAME2だが、相手の外れたかと思ったシュートがリングに当たったあとに入ってしまうなど、前半ではややアンラッキーな時間も起きていた。最終的にはそこから14点差での勝利に持ち込んだわけで、ロボッツがどう立て直したか。多嶋に尋ねると、極めてシンプルな答えが返ってくる。

「相手がいることなので、何をやってもうまくいかない時間帯はあると思います。そこで集中が切れてしまうか、切れてしまわないかの問題だったと思います。前半では点数的にタフな時間帯もありましたし、難しいゲームになりそうな雰囲気もありましたけど、ロボッツの内容がひどいわけでもなかったかと思います」

逆転されたあとも、秋田はたびたび流れを掴み返そうと仕掛けに仕掛けを重ねてくる。第4クォーターの残り2分を切ったところでタイムアウトを取った秋田は、フロントコートからの攻撃を選択。コースにしっかりと立ちはだかり、ドリブルを突かせて時間を削る。リバウンドの回収ができずとも、秋田の波状攻撃を判断良く守り続け、しっかりコンテストされたシュートを打たせる。結果的に30秒以上のディフェンスを成功させて、秋田は得点を伸ばせず。その後のポゼッションで多嶋から弾くようなパスが飛び、平尾が勝負を決定づけるシュートを決める。切り取ってしまえば40分の試合時間の1分少々に過ぎないのだが、この試合の白熱ぶりを説明するには、十分過ぎるインパクトだっただろう。緊迫した場面をものにできた要因を、多嶋はこう分析する。

「集中力の途切れは、オフェンスリバウンドを取られた瞬間に結構顕著に出ていて、2点とはいえ、ダメージの大きな失点に繋がったと思います。相手にリバウンドを取られても、すぐにディフェンスを立て直して外からのシュートに持ち込ませるという切り替えで粘ったというゲームでした。みんなで打開しようとして、ルーズボールに飛び込んだり、次のディフェンスローテーションに入ったりと、みんなが自分の仕事をやろうとした結果だと思います。良い時間帯でこうしたプレーができたのは、チームにとってもプラスだったと思います」

相手に対して「らしさ」で渡り合って、勝利を手にした。残りわずかな今シーズンの戦いで、ロボッツにとっては今が一番の成熟を迎えたようにも思える。やや回り道をしてしまったと受け止める向きもあるかもしれないが、着実な歩みを感じさせる1勝だったことは間違いないだろう。

いざ、今季の最終戦へ

今季のレギュラーシーズン最終節は、敵地での大阪エヴェッサとの戦い。インサイド陣を中心にケガ人の発生に見舞われている大阪だが、大ベテランの#15竹内譲次や#33アイラ・ブラウンらが暴れ回って強度を確保。ニュービルの神がかり的な得点力にも支えられて、終盤戦も勝ち星を伸ばしてきた。勝利のためには、インサイド陣の躍動と、ニュービルの動きそのものを抑え込むことが重要。相手のメインローテーションをまずは押さえ込んでの戦いに持ち込みたい。

選手たちも、最終戦に向けて力強いコメントを残している。3季目のキャプテンを務めきろうとしている平尾は、ロボッツの終盤戦の戦いぶりについてこう話している。

「もうチャンピオンシップ進出もなければ、降格もない。消化試合と言われてしまえばそれまでですが、何のために頑張るかと言えば、やっぱりロボッツを応援してくださる方々のために僕たちは戦わなければいけないんです。僕だけでなく、プレイヤーやスタッフも含めて全員が1つの勝利を取るために貪欲なチームだからこそ、22勝まで行けたと感じています。大阪さんも思いきり僕たちに向かってくる中で、僕たちは一つでも多く勝利を積み上げなければいけません。しっかりと、全力で全員で戦っていければと思います」

ロボッツにとっては、最終節にして今季初の4連勝がかかった一戦ともなる。今の茨城ロボッツとして戦う、最後の40分を、どうか見逃さないでほしい。

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