【AFTER GAME】 2021-22 群馬戦(5/7〜8)〜BUILDUPの着地点。再出発まで、しばしの別れ~

取材:文:荒 大 text by Masaru ARA
撮影:豊崎彰英 photo by Akihide TOYOSAKI

長かったシーズンも、ついに最終戦を迎えた。対戦相手はどういう因果か、昨季のB2プレーオフのファイナルと同じカードとなる、群馬クレインサンダーズ。互いの1年間がぶつかり合う2試合となった。GAME1を93-82で勝利したロボッツは、この時点で今季群馬戦の勝ち越しを達成する。しかし、最終戦に燃えた群馬の猛攻を受けたGAME2は、中盤で追いつきながらも再び引き離され、84-95で敗戦。今季最多の3640人の観客の前での勝利とはならず、B1昇格初年度は16勝38敗、東地区10位で終えることとなった。何かとトピックがありすぎたこの2戦だが、今回は勝利したGAME1に着目し、来季のさらなるBUILDUPに向けたピースを探ることとする。

ダンクラッシュに見えた、チームとしての習熟

GAME1の終盤、#21エリック・ジェイコブセンの動きは特に激しかった。落ちない運動量を武器に一気にリムランをやりきり、#25平尾充庸や#2福澤晃平のパスを受けてダンクシュートを叩き込む。どちらに転ぶか分からない試合展開の中、スカッとする場面をいくつも作り出した。

そこに限らず、終盤戦のロボッツで得点源となったのは、ガード陣とのピックアンドロールから繰り出す、お手本のようなリムアタックだった。狭いところのパスをしっかり通しきって、相手にダメージを与える2点を奪う。相手ディフェンスが無理に手で追いに行こうものなら、3点プレーが完成するということで、相手の強度も削ることに成功した。豪快なプレーの連続について、ジェイコブセンはこう語る。

「ファンの人が楽しんでくれれば良いなと思っていました。ただ、このプレーは、平尾選手と福澤選手が良いパスを出してくれたからだと思っていて、トランジションオフェンスの中で、ガードの選手と自分には良い連携を作れていました。そして、ダンクからチームを鼓舞して、雰囲気も盛り上げたかったんです。」

#15マーク・トラソリーニの退団以来、いわゆる「ビッグマン」という役割をそのままこなせるのは、ジェイコブセンただ一人という状況だった。4月半ばの横浜ビー・コルセアーズ戦ではプレータイムに制限をかけていた彼だが、そこからはファウルアウトを余儀なくされた5月4日のシーホース三河戦以外、8試合で30分以上をプレー。リバウンドを取りまくり、シーズン平均リバウンドは9.0まで伸びた。気付けばリーグのリバウンドランキングでも7位にランクインするなど、獅子奮迅とも言うべき活躍だった。この群馬戦も、#12オンドレイ・バルヴィンや#40ジャスティン・キーナン、時には#3マイケル・パーカーなど、タイプの違う選手たちを相手にインサイドを守り続けた。特にバルヴィンはリーグ最長身選手で、簡単に伍するのは難しい。しかし、そこで彼を支えたのは、あくまでチームとして戦うことであった。

「ディフェンスの中では、チームとしてのプランがあったので、それを遂行しようとしました。誰とマッチアップするときに、どんな選手がヘルプに付くのか。人によって付き方を変えて、そこをチームとして相対しに行きました。一方、オフェンスではタプスコット選手と自分はアグレッシブに戦わなくてはならないと思っていました。チームメイトが良いポジションでボールを渡してくれたので、得点にもつなげられました。」

話を連係プレーに戻す。シーズン中盤、コート上ではある光景が繰り広げられていた。昨年12月、アウェーで行われたアルバルク東京戦のことだ。終盤に福澤との間でピックアンドロールからの連携でインサイドを切り崩そうとしたが、わずかなところでパスが合わず、立て続けにターンオーバーとなってしまった。点差の詰まった終盤で、これは痛いプレーだったし、実際にこの試合でロボッツは敗れている。

この時、福澤とジェイコブセンは、コート上でしっかりとコミュニケーションを取り続けていた。それを経ての最終節。面白いほどに決まるプレーもさることながら、もはや言葉は不要とばかりに、黙々と決め続けていったのは、チームとしての熟練度が上がった証明だっただろう。この連係プレーについて、パスを出す側である福澤を直撃してみると、ジェイコブセンへの感謝が覗く言葉が出てくる。

「どれだけ疲れていても、絶対にプレーの強度が落ちないというか。エリックはずっとハードワークをしてくれます。ピックアンドロールをするときも、しっかりスクリーンを仕掛けてくれますし、そこからゴール下まで飛び込んでくれる。そこをすごく信頼できて、あとはパスをするか、シュートを打つだけという状況を判断するだけというところまで来ました。ありがたいようなプレーをいっぱいしてくれるんです。」

今シーズンのロボッツにつきまとった「アンダーサイズ」という側面だったり、リバウンド争いの部分など、個の力だけでは勝負しがたい部分があった。だからこそ、ロボッツはこうした相手を崩しきるプレーで勝ちを得ようとしてきた。これだけ連携度が高まっているからこそ、シーズンが終わるのが、少し寂しくなる瞬間でもあった。

シュートに、リバウンドに。価値ある一本を逃さず

福澤のスタッツは、いつ見ても面白い。3ポイント成功率だけを切り取ってみると、GAME1は22.2%、フロースローも4本中2本を落としながら、14得点を挙げている。それだけ彼が得点を奪うための引き出しが豊富にあるということなのだが、やはり彼の魅力は3ポイントシュートだろう。GAME1の第4クォーターでは、ドリブルの状態から放つ、「プルアップ」気味の3ポイントで群馬を突き放した。勝負どころで相手の隙を突ききったプレー。流れは一気にロボッツのものとなった。このプレーについて、試合後の彼に、ピンポイントに振り返ってもらった。

「3ポイントが9回試投、2回成功ということで、数字に出してしまうとめちゃくちゃ良くない確率だったとは思います。ただ、周りの選手は信じてパスを出してくれていましたし、外しても『打て』って声をかけてくれていました。あの場面はチャンスだと思って打った結果、打った瞬間に『入った』と思ったので、僕としては良いシュートだったと思います。」

今季で言えば、福澤の平均得点はB2時代の5年間で記録した11.3得点を上回る、12.2得点。ただ、代名詞である3ポイントシュートの成功率だけを切り取ると、B2での5シーズン平均である41.1%に対して35.7%に留まった。3ポイント成功率が40%を切ったのは、ルーキーイヤーである2016-17シーズン以来のこと。そう聞くと不安を感じる人もいるだろうが、ただ、福澤はそれ以上に大きな意味合いを持つ数字を残した。3ポイントの成功数だ。

今季の福澤は昨シーズンより多い、126本の3ポイントシュートをリングに沈めた。これは秋田ノーザンハピネッツの#7ジョーダン・グリン、大阪エヴェッサの#25ディージェイ・ニュービル、島根スサノオマジックの#3安藤誓哉に次ぐ、B1全体で4位の数値である。シュートラッシュが「注意報」と称される川崎ブレイブサンダースの#23マット・ジャニングや、そのシュートレンジの広さから「ココナッツスリー」の異名でお馴染みとなった琉球ゴールデンキングス#14岸本隆一よりも多い。Bリーグ全体でも名の通ったシューター陣と、しっかり肩を並べる、あるいは上回る成績を残してみせたのだ。

そして、このGAME1では福澤と平尾のリバウンド獲得数が目を引いた。トータルリバウンドで福澤が5つ、平尾が4つを獲得。さらに言えば相手選手が取り切れずにアウトオブバウンズになった時などに付く「チームリバウンド」も全体で5つを数えた。しっかり40分間を通してリバウンドを争いきった証拠だろう。

「これだけ僕らが取れたことというのは、相手のリバウンダーに対してしっかり抑えてくれていて、僕らがそれを拾いに行けました。出ている人たち全員が頑張って、僕らが拾わせてもらっているという感じなんです。数字の上では僕に付いていますけど、チームで争った結果ですよね。ありがたいです。」

この2シーズン、平尾がリバウンド争いについては「ちっちゃい人間ががんばる」と言い続けているし、昨シーズンの終盤には、福澤も「僕が3つ取る意識でやる」と話していた。裏を返せば、これだけ言い続けているからこそ、実際にプレーとして出せるのだ。得点を取るという部分だけに限ってしまうと、B2からB1にステージが上がった中で、その成功率や得点数は確かに低くなったのかもしれない。一方では、その1プレーが、10点、あるいは20点の価値を持ちうるものとして、ロボッツの選手たちは勝利のために目の前のプレーへの集中力を高め続けてきた。自らの、そしてチームの成長をどん欲に追い求め続けてきた福澤が、1年をかけてたどり着いて残した実績は、彼自身に限らず、今季のチームが進んできた「BUILDUP」の象徴だったのではないだろうか。

労い、そして新たなシーズンを待つ

GAME2では、久しぶりにユニフォーム姿を見せた#13中村功平、#14髙橋祐二の姿が会場を温かくさせた。特に髙橋はフェイスガードを装着してプレーしたことで見せ場を作り、戦線を離れていた間もそのディフェンスがさび付いていなかったところをもう一度ファンの目の前で見せてくれた。

そして何より、試合直前に自身のnoteで引退を明かした#0遥天翼に、改めて賛辞を送りたい。彼についてはもっともっと取り上げたいところなのだが、GAME2の記者会見で、今後に向けては「待っていてください」と、含みのある言葉を残している。もう少し後になってから、何らかの形で情報を出せるタイミングが来るはずであろう。よって、今は待ちたい。

また、最終戦では平尾が記者会見に登壇し、かなり熱のこもった言葉を発し続ける一幕となった。こちらもAFTER GAMEで伝えきれなかった部分が相当あるゆえに、また別の機会にまとめたい。

B1でのファーストシーズンは、ロボッツに関わる皆さんの目には、どう映っただろうか。順風満帆だったタイミングが恐らく無かった今シーズンだが、終わってみればそこかしこに「BUILDUP」の足跡が残っていたことだろう。今季最終戦、あの胸が昂ぶるような景色を新たなスタンダードにできるよう、クラブとしても今後さらなる発展を続けていくことだろう。

一方、2シーズン目を迎えたAFTER GAMEも、シーズン最終節と共にひとまず区切りを迎える。新たなステージで手探りが続く中の更新だったが、取材に応じていただいた選手・コーチの皆さん、そして通訳として毎度筆者のニュアンスを苦慮しながら伝えていたであろう落合明子チームマネージャー、さらには週3試合というタイトスケジュールの中で試合前に公開を間に合わせ続けてくれたクラブスタッフの皆さん、もちろん、文章に華を添え続けてくれた豊崎カメラマン。何より、ファンの皆さんが読み続けてくれたからこそ、という1シーズンでもあった。

別れもあるだろう、また新たな出会いもあるだろう。来る新シーズン、誰がいばらきブルーとつくばオレンジのユニフォームを身にまとい、コートに立つのか。来季は久々に降格・残留を懸けたサバイバルも発生する。生半可な戦いになろうものなら、悲しい結末が待っているだろう。

今季の結果を、しっかりバネにして戦うであろうロボッツ。次なる戦いに対して、改めてエールを送り続けてほしい。

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